京都府亀岡市旭町ー亀岡の盆地の北部に位置し、水田が広がる農村地域です。2010年1月引っ越したばかりの頃、雪がよく積もっていました。
畑での作業は何も進められません。できるのは、温床づくりの準備や必要な道具などを揃えたりするくらい。今思い返せば贅沢なくらい時間を持て余していたので、これからどんな名前で仕事をしていこうかとぼんやり考え始めました。
箇条書きでいくつか候補を挙げてみたものの、どれもピンときません。一つ自分の中で決めていたことは、「〇〇農園」や「〇〇ファーム」など畑・農場に限定されるようなネーミングは避けるということでした。しかし、そうするとなかなかしっくりくるものが思いつきません。「平井農園」とか「亀岡自然農場」とかだとよっぽど分かりやすいんですが。いろいろ考えているうちに以前に読んだ本のことを思い出しました。
農業研修の終わり頃、たまたま読んだ本に陶淵明の『桃花源記』について書かれた本を読み、合わせて『桃花源記』も読みました。「桃源郷」と聞くと、理想郷・ユートピアというどことなくふわっとした、ぼんやりした幻想的なイメージを感じます。もちろんそんな風にも読めますが、『桃花源記』を読んで僕が感じたのはもっと別のものでした。
戦乱を逃れて人里離れた場所に作られた集落で、長年外の世界と交渉せず王朝の推移も知らずに人びとが楽しく暮らしている。設定はシンプルでよくあるものなのかもしれません。でもそんな場所が本当にあったら面白いなと、妙に腑に落ちるものがありました。そして、その中の一文「みずから楽しめり。」、これが一番心に残りました。みんなそれぞれ自分が好きなことをして楽しんでいる。
うん、これがいいなと思いました。「とうかげん」。
こう書くと、何かしらのコミュニティを作りたいのかと勘違いされがちですが、そうではありません。現実の世界でコミュニティを作ってしまったら、もうそれは「桃花源」にはならないでしょう。そうではなくて、もっと広くて緩い「つながり」のようなものを創っていきたいなという思いが、何となく湧き起こりました。
それから12年以上経って、「とうかげん」についての考えもいろいろと自分の中でまとまってきました。言葉で説明できることも増えてきました。でも、2010年1月の思いつきから全ては始まっていったように思います。